恐竜の話題(論文紹介): (19) オビラプトロサウルスの”ロミオとジュリエット”--- 2頭はきっとカップル

2016年2月20日土曜日

(19) オビラプトロサウルスの”ロミオとジュリエット”--- 2頭はきっとカップル

[図:羽毛恐竜カーン(Khaan mckennai)は尾を使ってダンスディスプレイ(courtship display) をしていた?]

話題(12) とは別の、恐竜の姿の雌雄差に関する2015年の報告(文献1)についてです。


オビラプトロサウルス類に属するカーン(学名Khaan mckennai)は鳥類に似た姿の恐竜で、口ばしには歯はなく、体長は1メートルを超える程度です。
モンゴルのゴビ砂漠でほぼ同じ大きさの2体の化石が互いに20センチメートルしか離れていない状態で見つかったのは1995年(文献2)でした。突発的な災害により、多量の砂の中に一気に埋没したと考えられた2体は ”ロミオとジュリエット”(シェイクスピア悲劇で有名な二人)、あるいは”シドとナンシー”(やはり悲劇的な最後を迎えた、こちらは実在の伝説的なパンクロックバンドのベーシストとその恋人)というニックネームで呼ばれていました。
標本のID番号ではMPC-D100/1002(ほぼ完全な骨格)とMPC-D100/1127(これは完全な骨格)。1002のほうが若干大きいのですが、骨格の発達程度から、両者ともに同程度の成長段階に達していたと判断されます。

尾を見てみると、オビラプトロサウルス類に属する他の恐竜と同じく、短めです。この尾の個々の椎骨の下部には血管弓(血管を保護する骨)があり、さらにこの先に突起(血管棘(けっかんきょく)と呼ばれます)が伸びているのですが、1002と1127でこの突起の形に違いが見られるというのが文献1による報告です。これが雌雄差であれば、ニックネーム通りにこの2頭はカップルであったと想像できます。

[上図:側面図の寛骨臼(かんこつきゅう)の穴に足の大腿骨が接続。右端が尾の先端]

尾の付け根に近い部分を比較すると、1002のほうがより下向きにこの突起が伸びており、またその先端が広くなっています。特に前から4番目の椎骨からの突起の先は矢じりのようです。この形態の違いは、個体間でのばらつきにしては大きすぎ、また、病気や怪我が原因で生じたとも考えられないという結論です。1002では5番目以降の椎骨が失われているためにこれより後方での比較ができないものの、この違いの意味するところは重要といいます。なぜなら、この違いが見られる箇所には尾を動かすための筋肉が付着するからであり、1002ではその付着部分の表面積が大きくなるため、尾のより力強い動きと柔軟性を生み出せるはずなのです。
オビラプトロサウルスの仲間は尾をディスプレイに使っていたのではないかという論文(文献3)があります。文献1で認められた2体の標本におけるこの突起の形の違いが雌雄差であるならば、鳥類の雄のように、こうした恐竜の雄も尾を巧みに使いながら、雌に見せるための求愛ダンスを踊っていた可能性も十分推測できます。したがって、1002が雄、1127が雌と考えるのです。

以前にワニの尾の付け根部分の血管弓の形に雌雄差があり、雌は卵を産むために産道のスペースが必要で、そのためにこの場所の突起が短くなっているのではないか、そしてこれは恐竜の雌雄判別にも使えるのではないかといわれたことがありました。しかし、よく調べたところ、北米ワニのアリゲータでは雌雄差が認められず(文献4)、この説は支持されていません。それでも実際のところ、恐竜ではどうであったかはまだわかりません。文献1では、この部分の構造の違いが尾の機能に影響するだけでなく、短い突起は雌の産卵のため、そして長い突起は雄のペニスを収めるための筋肉を保持するためと考えることもできると述べています。

骨格を見る限り、その差異は些細なもののように思われますが、このように実際の姿や行動に大きな違いをもたらしうるものと考えられます。

2頭が命を落とすことになった突然の大量の砂は砂嵐のせいだろうと最初は考えられていました。ところがそうではなく、大雨によって引き起こされた大規模な砂丘の崩壊が原因らしいというこの地での調査結果が出ています(文献5)。周囲には巣を作っていたことを示す形跡はないので、まだ出会って間のないカップルであったかもしれませんが、発掘の状況は2頭がこの自然の猛威の中で寄り添って最期を迎えたのではないかということを物語っています。
文献1:Persons, W. S. et al., (2015). Sci Rep, Vol 5, 9472. DOI:10.1038/srep09472.
文献2:Amy M. Balanoff, A. M. and M. A. Norell (2012). Bull Am Mus Nat Hist, Vol 372, 1. DOI: http://dx.doi.org/10.1206/803.1
文献3:Persons, I. V. et al. (2013). Acta Palaeontol Pol, Vol 10, 553.
文献4:Erickson, G. M. et al. (2005). Zoology, Vol 108, 277.
文献5:Loope, D. B. et al., (1999). J Geol, Vol 107, 707.


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