恐竜の話題(論文紹介): (12) ステゴサウルス(ヘスペロサウルス)の外形に雌雄の違いあり?

2015年11月3日火曜日

(12) ステゴサウルス(ヘスペロサウルス)の外形に雌雄の違いあり?


これまで恐竜の形態に明確な雌雄の差があるかどうかは定かではありませんでした。
ハドロサウルスの類で雌雄の違いをあらわすとされていた特徴は、近縁の種の間での差異であるということになりました(文献1)。また、スーの愛称で有名なティラノサウルスが雌ではないかとう根拠となっていた尾部の血道弓(脊椎から腹側に伸びている骨)の数も、種内の多様性をあらわすもので(文献2)、今やスーは雌だと決められないということになっています。
しかし最近になって、ステゴサウルスの背中の板にみられる2種の形態が確かな雌雄差を示すものだと主張する報告が出ました。外形に関する違いであり、恐竜たちの互いの視覚による認識にも関連することです。


雌雄差か? ステゴサウルス(ヘスペロサウルス)の背板の形態に2種


ステゴサウルスの類では、ケントロサウルスの大腿骨の長さの違いに2形があり、これが雌雄差をあらわすのではという報告(文献3)がありました。しかし、文献4の著者たちは成長中の骨の末端のまだ骨化していない部分は化石とならないので、発生段階を考慮していないこの報告は問題であると結論づけています。今回、文献4の著者たちはステゴサウルスの形態上、最大の特徴である背中の板に注目しました。
ここで対象となったStegosaurus mjosi (学名)は以前にHesperosaurusと呼ばれていたもので、ステゴサウルスの仲間に属するかどうかはまだ完全には決着がついていないそうです。
この恐竜の背板は見た目明らかに丸っこくて幅が広いものとほっそりとしたものの2種があります。この傾向を正確に把握するため、板の基部や外周の長さ、表面積、基部と頂点との角度など6か所の測定結果をもとにデータの値の多様性を生み出す要因の組み合わせに沿って情報を要約し、分散の図を作成してみました(主成分分析といいます)。すると、板が大きくなるにつれて、細さが目立つものと幅広さが目立つものにはっきりと分かれることがわかりました。

これが雌雄の違いによるものであると主張するのは次のいくつかの理由からです。

まず、この二つのタイプの中間の特徴をもつ板は見当たらない。また、ひとつの個体はこの二つのタイプのうち、どちらか一方の板しか持たない。
また、米国モンタナ州のある発掘現場ではそれぞれのタイプの板をもつステゴサウルスたちが1か所にまとまって混在したまま同じ時に化石化していた。他の場所から流されて集まったり、肉食恐竜の餌食となった形跡などはなく、その場所で群れていたことを示しており、しがたって別種同士を比較してしまったのではない。
切片標本の観察やX線CTスキャンを用いて推定した背板の内部の血管が走っている様子から、十分に成長した個体をみている。細い板も成長を終えた形跡がある。大腿骨の観察結果も成長速度が落ちていた時期であることを裏付けている。したがって成長段階による違いをみたのではない。

では、細い板、幅広の板、どちらが雄のもので、どちらが雌のものなのでしょう? ここは著者たちの予想ですが、幅広タイプは雄のものではないかということです。背板は雌雄間の識別に使われていたはずということになりますが、幅広タイプは細いタイプより45%も表面積が大きく、飾り物として成長させて維持するにはそれなりにエネルギーが必要です。外見により多くのエネルギーのコストをかけるのは雄のほうということなのです。

プロトケラトプスでは雌雄間の明確な頭部形態の差は見つけられず


プロトケラトプス(Protoceratops andrewsi)の頭部骨格に雌雄の2形を示す特徴がみられるという報告がありますが、本当に雌雄の差をあらわすものか、疑わしいということになっていました。そこで文献5の著者たちは文献4でも使われた主成分分析による再検討をおこないました。ここでは幾何学的形態測定法(geometric morphometrics)という、ものの形を幾何学的に定量化して共通性や違いを抽出する手法を組み入れ、29の頭蓋骨標本を詳細に調べています。

以前から雌雄の差をあらわすのではないかと考えられている頭蓋骨の特徴に関する測定値と頭蓋骨のサイズとの相関関係を調べ、仮の“雄”または“雌”の形質にわけます(たとえば、鼻の高さやフリルの幅では、基準より測定値が大きいものは“雄”を示すスコアがつきます)。さらに頭蓋骨のあちこちの目印となる、機能的にも重要な箇所(例えば頬の突起の先端や眼窩(眼球がはいる穴)の上部頂点など)の場所をランドマークとして形をデジタル化します。形のアウトラインをさらにつかむために、ランドマーク間にサブランドマークをいくつも決めてゆきます。こうしてサイズと形の両面で各個体の分散をみてみると、若い個体特有のグループ(角(つの)がない、口の先が短いなどの特徴が認められる)ははっきりと存在するものの、仮の“雄”と“雌”についてはオーバーラップしていて、明確にグループとして分かれないという結果が得られました。

結局、これらの差異は成長段階の違いか、種内の多様性をみているのだということです。
ただし、口先の形に限ってのみ、雌雄2形の可能性があるかもしれないものの、現在のサンプル数ではそこまでは言えないという結論です。実際にはプロトケラトプスが頭部のごく限られた箇所の特別な視覚的効果をとらえて雌雄を判別している可能性もありそうですが、ここは直接恐竜本人に聞いてみないとわからないところでしょう。


文献1:Evans, D. C. and R. R. Reisz (2007). J Vertebr Paleontol Vol 27, 373.
文献2:Erickson, G. M. et al. (2005). Zoology Vol 108, 277.
文献3:Holly E. Bardenab, H. E. and S. C. R. Maidmentc (2011). J Vertebr Paleontol Vol 31, 641.
文献4:Saitta, E. T. (2015). PLoS ONE Vol 10, e0123503. doi:10.1371/journal. pone.0123503.
文献5:Maiorino, L. et al. (2015). PLoS ONE Vol 10, e0126464. doi:10.1371/journal.pone.0126464.


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