恐竜の話題(論文紹介): (27) 竜脚類恐竜ティタノサウルス類の赤ちゃん、生まれた時からひとり立ち

2016年10月7日金曜日

(27) 竜脚類恐竜ティタノサウルス類の赤ちゃん、生まれた時からひとり立ち


 

竜脚類の一グループであるティタノサウルス類に属するラペトサウルスの生後数か月と考えられる赤ちゃんの化石を調べたところ、小さいながらもその大腿骨の形とつくりは成体とほとんど変わりがないことがわかりました(文献1)。恐竜の中には育児をするものもいましたが、竜脚類は生まれてすぐにひとり立ちしていたのだろうと考えられています。



地上の動物の歴史で最大重量を誇る竜脚類


首と尾が長い竜脚類( 話題17 )の恐竜の仲間は巨大な体をもつものが多く、地球の歴史の中で最大のサイズをもつ陸上動物でした。ティタノサウルス類(Titanosauria)は多くの種(しゅ)の化石が見つかっており、中生代後半の各大陸で棲息していたことが知られています。

例えば、アルゼンチン南パタゴニアで発見されたドレッドノータス(Dreadnoughtus)と名付けられたティタノサウルス類の骨格は、首の付け根から後方部分の骨格がかなり揃った巨大なものでした。2014年の報告では、体長はおよそ26メートル。上腕骨と大腿骨の周囲の長さから体重を求める経験式を使うと、ほぼ60トンという、骨格がある程度揃っている標本から推定されたものとしてはこれまでの最大重量となる値が発表されました(文献2)。しかも骨組織の観察から、その個体はまだ成長中であったと判断されたのです。
この推定体重については、いくつかの異なる方法で体重が推定されている他の竜脚類と骨格全体を比較し、ドレッドノータスがそこまで極端に大きくないとして、別の研究グループが新たに体の3次元モデルを作製、得られた体の体積より22~38トンという値を出しています(文献3)。この値は文献3の著者たちが同じ方法で算出したアパトサウルスの体重と同レベルのものです。しかし、ドレッドノータスの強大な前後脚で支えた体重が実際はどれくらいであったのか、まだ確かなことは言えないようです。
いずれにしても、数十トンという、ここまで巨体になる陸上動物は竜脚類をおいては他にいません。こうした巨大な竜脚類の場合、赤ちゃんはどのように生まれ、成長するのでしょうか。

巨大ではなかった竜脚類の赤ちゃん


大きな赤ちゃんを産むとなると卵生では限界があるため、竜脚類は胎生であったかもしれないという説もありました。しかし、明らかに竜脚類と認められる骨格を内部に含んだ卵の化石が発見され(文献4)、竜脚類も卵から孵化するということが明らかとなりました。
各地で見つかっている竜脚類のものとみられる卵のサイズは大きなものでも直径25センチメートルを超えることはない(文献5)ということですから、決して巨大な卵から巨大な赤ちゃんが生まれてくるわけではなかったのです。成体が巨大である種類では孵化直後の赤ちゃんとの体の大きさの違いは大変なものです。巨大な親の足元にいては、小さな赤ん坊は踏みつぶされる危険もありそうです。

ティタノサウルス類の卵とされている化石は地表に掘られた穴に入った形で見つかっており、卵の上は土砂または植物などで覆われ、鳥類のツカツクリがそうなのですが、親が抱卵して温めるのではなく、地熱や微生物の活動などによる熱を利用していたと考えられています(文献6)。話題4で紹介しましたが、卵の殻の多孔性(通気性)の程度が、巣に蓋いがあるかないかに関係しているとして注目されてきています。2015年の報告でも、トロオドンの卵殻の通気性は比較的高くはなく、蓋いのないタイプの巣で親による抱卵がおこなわれていたこと、しかし、ティタノサウルス類の場合は通気性が高く、蓋いのある巣の中に卵が置かれていて抱卵はされていなかったことが推測されています(文献6、7)。

一般に恐竜は誕生した時から幼体にかけての間の死亡率が高く、多く産んで生き残ったものが世代を継いでゆくという生存の戦略をとっているとみなされています(文献8、9)。しかし、その中でも育児恐竜の話題で紹介したように、育児をおこなっていた恐竜もいたようです。大型竜脚類のように孵化後と成体の体の大きさがあまりにも違いすぎる場合はどうなのでしょうか。

大型竜脚類は年間最大で1トンを超す成長速度をもっていたと考えられており(話題14)、大急ぎで体を大きくしていたことがわかります。それでも生まれてからある程度以上の大きさになるまではそれなりの期間が必要です。竜脚類は群れをつくるが、若い個体は成体の1/3くらいの大きさにならないとそうした群れに加わらなかったのではないかということが、足跡や多くの個体の骨が集積して発見された場所の様子から推察されています(文献9)。営巣の様子も踏まえ、孵化後は直ちに独り立ちしたとみられてきました。
実は孵化後しばらくは群れから離れた所で、できるだけ身動きをしない親に守られているということも完全に否定はできないのでしょうが、そのような可能性は高くないようです。竜脚類は全てがそうであるかはともかくも、おそらくほとんどの種類では、生まれた時から捕食者の肉食獣から逃れ、自らエサを探さないといけない生活を送っていたと考えるのがよさそうです。営巣状態の類似性が示唆された先述の鳥類のツカツクリも、親は孵化後のヒナの世話をしません。

幼いラペトサウルスの化石の発見 ~誕生時は数キログラム


さて、このたび文献1により報告された白亜紀後期のラペトサウルス(Rapetosaurus)の赤ちゃんについてです。ティタノサウルス類に属するラペトサウルスは2001年にマダガスカルで最初に見つかりました(文献10)。体の全容がわかるその時の骨格標本は10メートル程度の体長を示していましたが、少なくとも15~18メートル程度までは成長するとされています。

[ 竜脚類の仲間 ]

この幼体の化石もマダガスカルで見つかりました。地面から肩や骨盤までの高さがともに35センチメートルまで、体重は40キログラム程度という小ささです。骨の成長が一時的に大きく妨げられた跡が骨内部の中心軸周囲にあり、これが一部の爬虫類でhatching lineと呼ばれる、孵化後しばらくは成長にエネルギーを割けない時期を過ごした名残りだと考えられます(哺乳類ではneonatal line;鳥類でも同様の跡がみられますが、哺乳類、鳥類ともに明確な跡は残りにくい)。hatching lineより内側の骨の直径から、誕生時の体重はたったの3.5キログラム程度であろうと推定されました。その体積はティタノサウルス類のものとされている卵の大きさと合致します。また、hatching lineより外側にある骨の成長に要した時間を他の恐竜のデータをもとにして、1か月過ぎから2か月半くらいと見積もっています。つまり、生後これくらいで命を落として化石になったということです。

竜脚類では、大腿骨などの長骨は成長過程をとおして、その形はあまり変わらないのではないかと以前から考えられていました(文献11)。今回の赤ちゃんの大腿骨はその通りであることをはっきりと示しています。また、骨の形だけではありません。その大腿骨内部もすでに骨再形成がおこっていたことから、体重を支えたり、運動をおこなうことによる負荷がこの骨にかかっていたことがうかがえました。形もつくりも成体の機能をもつ大腿骨で赤ちゃんは動き回っていたようなのです。骨端の石灰化した軟骨部分が薄いことは、哺乳類や鳥類のデータからみて、この恐竜が晩成ではなく、早成であることを支持すると考えられました。

大きな体重を支えて移動する成体と同じような立派な形の脚を備えていても、幼体の歩行運動様式は成体とは違うはずです。体重が小さい分、より活発に動けたかもしれません。しかし、経験不足も加わり、特に幼いうちはぎこちない動きしかできない可能性はあります(文献11、12)。ウサギでは、まだ骨と筋肉の強さが十分ではない成長中の個体でも、ダッシュ能力には成体よりも勝る面があるとう観察があります(文献12)。成体と成長中の個体では、外敵からの逃れ方の違いなどもあり、幼くても小さな体からくるスタミナ不足を補う能力をもって成長中の時期に危険から脱出できるようになっているようです。ラペトサウルスの赤ちゃんは自活のために、どんな特技を身につけていたのでしょうか。

この時代のこの地域はたびたび厳しい干ばつに見舞われていた形跡が残っています。ここで得られた長骨の長軸の端には飢えによるとみられる骨形成の異常が確認できました。赤ちゃん恐竜の命を奪ったものはこの厳しい環境であるのは間違いなさそうだということも骨の化石を調べることによって見えてきました。

* この記事では「あし」を漢字で「脚」とあらわしました。体重を支え、移動に必要な機能に注目しているからです。他の記事では「足」や「肢」も使っていますが。

文献1:Rogers, K. C. et al. (2016). Science, Vol. 352, 450.
文献2:Lacovara, K. J. et al. (2014). Sci. Rep., Vol. 4, 6196.
文献3:Bate, K. T. et al. (2015). Biol. Let., Vol. 11, 20150215.
文献4:Chiappe, L. M. et al. (1998). Nature, Vol. 396, 258.
文献5:Sander, P. M. et al. (2011). Biol. Rev., Vol. 86, 117.
文献6:Hechenleitner, E. M. et al. (2015). PeerJ, Vol.3, e1341. DOI 10.7717/peerj.1341.
文献7:Tanaka, K. et al. (2015). PLoS ONE, Vol. 10, e0142829.
文献8:Richmond, N. D. (1965). J. Paleon., Vol. 39, 503.
文献9:Paul GS. (1994). Dinosaur reproduction in the fast lane: implications for size, success, and extinction. In: Carpenter K, Hirsch K, Horner J, editors. Dinosaur eggs and babies. New York: Cambridge University Press. p 244–255.
文献10:Rogers, K. C. and Forster, C. A. (2001). Nature, Vol. 412, 530.
文献11:Bonnan, M. F. (2007). Anat. Rec. Vol. 290, 1089.
文献12:Carrier, D. R. (1995), Zoology, Vol. 98, 309.

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