恐竜の話題(論文紹介): (16) 恐竜は中温動物? --- 変温動物、恒温動物、そして中温動物とは

2015年12月20日日曜日

(16) 恐竜は中温動物? --- 変温動物、恒温動物、そして中温動物とは

恐竜中温動物説 ---- 変温動物と恒温動物の中間の体温維持機能をもつ


変温動物、恒温動物、外温動物、内温動物について


一般に使われる場合の用語の整理です。

変温動物 poikilotherm
 外界の温度によって体温が変動する動物
(注:通常、外温動物と同義)
恒温動物 homeotherm
外界の温度にかかわらず、一定の体温を維持する動物
(注:通常、内温動物と同義)
外温動物 ectotherm
 外界の温度に体温が依存する動物
 (注:代謝による熱はどのような動物でも発生するので、外温動物であっても体が大きくなるほどに、代謝熱による体温への寄与は大きくなる)
内温動物 endotherm
 より活発な代謝による熱を利用して、外界の温度にかかわらず、一定の体温を維持する動物
 (注:体温は30℃台の半ば以上と高め)

中温動物とは


多様性の大きい生き物の世界。生理学的な観点からグループ分けを一律に規定しようとすると、いろいろと例外も出てきます。内温性の哺乳類でも、冬眠する動物はその間体温が低下します。それでも通常の活動中は一定の高い体温を維持するため、そうした特別に不活発な時以外は内温性であることには間違いありません。
しかし、外温動物とひとくくりにされている爬虫類や魚類、そして中には内温性と扱われる哺乳類の中にも、外温動物と内温動物の中間的な性格を持つものがあります。


爬虫類の中で外界の温度よりも高い体温を示す例として、オサガメが知られています。このウミガメは一定の体温を保つことはないものの、周囲の冷たい海水よりも高い体温を示すことが以前から知られていました。この能力は体がある程度大きいことにくわえて、体の表面が高い保温性をもっていること、運動量を増やして熱を得ること、そして重要なのは、血流をコントロールすることによる体温維持機能があることなど、いくつかの要因があるようです(文献1、2)。オサガメは完全な外温性とはいえない、しかし、鳥類や哺乳類の内温動物のような安定でかなり高い体温をもっているわけでもないということで、Gradyらはこうした動物をその中間に位置するものとして中温動物(mesotherm)と呼ぶことを提唱しました(文献3)。

中温動物の例として、彼等はさらにマグロやネコザメの仲間(ホホジロザメ(ホオジロザメ)もこれに含まれます)の魚類を挙げています。これらの魚は血流をうまく使って熱を逃がさないようにし、筋肉の温度を海水温度より高くすることができます(文献4、5)。体の一部が内温性(regional endothermy)となるのですが、これも以前から知られています。釣り上げたマグロはすぐに冷却しないと、魚肉としての価値がすぐに失われてしまうのは、この高い筋肉温度によるものです。
上に述べた爬虫類や魚類に属する「中温動物」は基本、外温性ではあるものの、外界の温度が活動するには低すぎる時でも、代謝熱を利用して、これよりかなり高い体温を得ることができます。しかし、一定の温度を安定して維持するわけではなく、これは体の小さい動物で顕著となります。
文献3では、哺乳類の中からも「中温動物」としての例が挙げられています。ハリモグラです。ハリモグラの体温は低めで、しかも外気温に左右されます。代謝速度が低めなのです(文献6)。
以下、新たに提唱された用語である「中温動物」から、「 」をはずしておきます。

恐竜は中温動物?


Gradyらは文献3で、多数の脊椎動物についての公表されている代謝と成長に関する測定値(その総数は約3万)を使い、代謝速度と成長速度の関係を比較しました。その結果、動物分類学上のグループにかかわりなく、どの脊椎動物も、成体の体のサイズ(体重(正確には質量)で表示)と最大成長速度の関係から、外温動物、内温動物、そして中温動物にわけることができること、また化石をもとに得られたデータは、恐竜が中温動物に属することを示すという報告を出しました。調べた恐竜は様々で、21種にのぼり、現状では恐竜全般にいえる性質であることを示唆しています。


Grady, J. M. et al. (2014). Science, Vol 344, 1268、Fig1より。多くの動物のデータの分布から得られた回帰直線のみ示します。

話題(14)でGilloolyらが行ったように、代謝速度をあらわすモデルの式にボルツマン定数を導入しています。また、そこで述べたアロメトリック係数の値3/4をここでGradyらは用いていますが、この係数の値の多少の変動はあまり結果に影響せず、仮に2/3をあてはめても結論は変わらないとしています。最大成長速度を用いることにより、さまざまな脊椎動物の成長を標準化し、種の違いを越えた生理学的特徴の比較を可能にしています。
注目すべきは始祖鳥アーケオプテリクスについての結果です。始祖鳥も中温生物のグループに分類されるのです。羽毛と飛翔の登場よりも後になってから、現存する鳥類が持つような内温性が獲得されたことを示しています。

Gradyらの発表について、異論が二つ出されました。ひとつは最大成長速度の算定についてです。骨の年輪様の模様(話題(14)参照)から得られた値を一日あたりの成長速度に平均割りしているのですが、恐竜の成長の季節変動を無視しているので、実は一日あたりの成長速度が非常に大きい時期があってもこれを見逃してしまい、本来ならば内温性でないと達成できない代謝量を過少評価しまっているのではないかというのです(文献7)。これに対し、Gradyらは、外温動物、内温動物ともに成長の季節変動があり、この点は恐竜も他の動物も同等の扱いをおこなっていること、さらに平均値を使うことは変動の中での極端な数値を使うよりも妥当であると反論しています(文献8)。
もう一つの異論はデータの取扱いに関してです。モデル式の中で異なった変数が成体の体重というパラメーターを共有しているという指摘があります(文献9)。これについてGradyらは、一般にパラメーターの共有が問題ないことは以前に議論済みであること、モデルからの結果がこれまでに報告されている現生動物の実測結果と合うことで退けています(文献8)。異論をとなえた文献9は、さらに成体の体重と関連づけるべきは最大成長速度ではなく、ボルツマン定数を自然対数の底で割ったものであるべきと提言し、その相関図によると外温動物と内温動物のデータはかなり重なった領域にも分布することになるので、そもそも中温動物という特別枠を設けるのは妥当ではないと主張しました。Gradyらはこの点について、どちらの表示でもスケーリングが異なるだけで、標準偏差は同じであるうえに、文献9の図は関連するデータ全体を動物のグループの境界として表示してあるので相関の実体を示せていないと反論。そして信頼度95%の直線であらわした図を両方の表示方法で同じ結果になることを見せています。また、相関の表示に関しては、生物学的に意味のある最大成長速度を使うほうが理に適っているとも述べています。

Gradyらの報告は前回紹介した化石の元素分析による最新の結果( 話題15 )にも合うものです。しかし、恐竜がどのような代謝にもとづく体温調節を行っていたのか、その全容に至るにはまだまだデータが不十分であることには違いありません。特にGradyらが述べているように、幼体についてのデータがぜひ必要であり、これはそのうちに何らかの報告が出てくるのではないかと思います。現在の鳥に至る進化のうえで、内温性がいつ、どのように獲得されたのかも気になるところです。

恐竜は中温動物なので巨大になれた?


もしも大型恐竜が哺乳類なみの代謝量を持っていたとすると、その大きな体を維持するために多量の食料が必要となります。
現存のゾウは大きな体に見合うだけのエネルギー源を得るため、多くの時間をエサをとるために費やしています。恐竜の時代に地上の植物が食料として蓄えることができるエネルギー量(食料にできるバイオマス)が、ゾウのいる現在のアフリカ草原の最も豊かな地域程度のものであった(実際はそれよりも貧弱であったとみなされています)と仮定してみると、巨大恐竜は哺乳類と同じような活発な代謝をおこなっていては、食料不足でとても生きてゆけないということになります(文献10)。現存する爬虫類のコモドドラゴンが属するオオトカゲの仲間は通常のトカゲよりも代謝が活発で、これも中温動物とみなすことができますが、オオトカゲと同じようなエネルギーの使い方をすれば、巨大な種類の恐竜も生存可能となるという見解が以前にすでに出されていたのです(文献10)。Gradyらは肉食のティラノサウルスについても、彼等がもしも内温性であれば、たちまち飢え死にしてしまうだろうと述べています(文献11)。
さらに検証が必要ですが、巨大な恐竜が生存できたのは、内温動物ほど多量のエネルギーを必要としない中温動物であったからということになるのでしょう。

話題(13) 「象も大型恐竜も暑いのは苦手 体の大型化はオーバーヒートとの闘い」から連続して恐竜の体温にかかわる話題でした。今回は動物を外温性、内温性と二分してしまうにはおおざっぱすぎる面があり、その中間的な存在である中温性という領域に恐竜が位置しているらしいという、興味深い報告を紹介しました。


文献1:Wallace, B. P. and T. T. Jones (2008). J Exp Mar Biol Ecol, Vol 356, 8.
文献2:Bostrom, B. L. et al. (2010). PLoS ONE, Vol 5, e13925
文献3:Grady, J. M. et al. (2014). Science, Vol 344, 1268.
文献4:Bernal, D. et al. (2001). Comp Biochem Physiol PartA, Vol 129, 695.
文献5:Sepulveda, C. A. et al. (2008). J Fish Biol, Vol 73, 241.
文献6:Dawson, T. J. et al. (1079). Aust J Zool, Vol 27, 511.
文献7:D’Emic, M. D. (2015). Science, Vol 348, 982b.
文献8:Grady, J. M. et al. (2015). Science, Vol 348, 982d.
文献9:Myhrold, N. P. (2015). Science, Vol 348, 982c.
文献10:McNab, B. K. (2009). PNAS Vol 106, 12184.
文献11:Balter, M. (2014) Science, Vol 344, 1216.


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