恐竜の話題(論文紹介): (11) 草食恐竜の奇妙な構造物--ドロマエオサウルスの攻撃を防ぐため? 狩りは飛翔にも関連?

2015年10月18日日曜日

(11) 草食恐竜の奇妙な構造物--ドロマエオサウルスの攻撃を防ぐため? 狩りは飛翔にも関連?


前回 (話題10) は恐竜の背中側にある奇妙な構造についてでした。こうした構造は草食恐竜特有のものであるようにみえます。
草食恐竜の奇妙な構造はドロマエオサウルス類の恐竜(ヴェロキラプトルやディノニクス)の攻撃を防ぐものであったのではないか。そしてこうした狩りは攻撃者の飛翔能力の獲得に貢献したかも。こんな面白い説を出している医者がいます(Fraser, G. (2014). The Journal of Paleontological Sciences: JPS.C.2014.01.------https://www.aaps-journal.org/journal/pdf/Garnet-Fraser-JPS.C.2014.01.pdf)。

ドロマエオサウルス類はそのかぎ爪を使って大きな恐竜の背中へ登った(樹上から背中へ飛びついた可能性へも言及)のではないかと想像しています。そして獲物が倒れるまで背中に取りついて攻撃や食事を続けることもあれば、飛び降りて離れたりすることもあり、そんなことをしているうちに飛翔能力も高まったというものです。

ここでは大きな獲物の背中に取りついての攻撃の例として、哺乳類のクズリによるトナカイの狩りを恰好の例としてあげています。体長がせいぜい1メートルのクズリはトナカイを含むシカやヒツジの背中に取りついて攻撃します。この狩りは特に冬季に顕著で、獲物が倒れるまで1日以上かかったかもしれない例も知られているようです。クズリは木登りがうまい動物です。この能力が大きな動物の背中への攻撃を可能にしています。
鳥類ではイヌワシがトナカイを襲う記録もあり、アラスカのある山岳地帯では野生の子ヒツジの30%はワシの餌食となるという報告があります。これらも自分よりも大きな相手の無防備な背中に取りついての攻撃です。
相手を倒すのではなく、時々取りついて栄養源にしてしまうという例については、ガラパゴス諸島の一部で小鳥のハシボソガラパゴスフィンチが大きな海鳥の背中から血を吸うということをご存知の方も多いと思います。

比較的小さな肉食恐竜の中には、同じように自分と相手の体格差に応じたタイプの狩りをしていたものがいた、そしてその攻撃を避けるために草食恐竜は背中の障害物として、それぞれ独特な構造物を持つようになったという説明です。
ステゴサウルスの背中の板は大型の捕食者にはもろすぎるようですが、小型のドロマエオサウルス相手なら、それなりに防御の機能はありそうです。アマルガサウルスの派手な突起物もそんな役割があったかもしれません(このページ最初の絵)。雷竜たちの細長いムチのような尻尾の先端は、ビュンビュン振り回して背中への攻撃を防ぐのに使われていたのかもしれません。カモ竜のパラサウロロフスには頭の後ろに伸びる長い突起がありますが、首を動かして背中の攻撃者を邪魔するのに有効そうです(前回 (10) の最初の図)。角竜のフリルは外枠だけのものがあるので、仲間同士で角を突き合わせる時の防御装置としてはあまり考えにくい一方、フリルについている後ろ向きのスパイク(前回 (10) の二つめの図)は、走っていて急停止すれば、背中の厄介者にダメージを与えることもできそうです。著者はそんな記載をしています。

一方の捕食側のほうも背中からの攻撃に適した体のつくりとなっていると説明しています。ドロマエオサウルスは竜盤類ではあるものの、恥骨が前向きではなく、後ろ向きに変化してしまっています(参考:竜盤類と鳥盤類の説明 )。このため、相手の背中に密着しやすいのです。また、ドロマエオサウルスの口先は細長いので、背中の構造物があっても内皮の下の血管までに到達するのに都合よく、さらに、背中に食らいついている時に相手が激しく動いて振り回されても、口ごとうまく回転してせん断力によるダメージを受けにくい利点があるというのです。

こんな狩りが頻繁におこなわれていたとしたら、化石にも何らかの跡が残っていそうです。著者によると、関連するかもしれない痕跡があるといいます。
背骨から上部に出ている突起(椎骨(ついこつ)の棘突起(きょくとっき))が障害を受けて治癒し、その部分が盛りあがったと思われる跡が見つかることがあるが、これはそうした攻撃を受けた名残りであるかもしれないとしています。

背中へ取りついての攻撃、そして頻繁な飛び降り(そしてやがては飛び乗りも)が促進した飛翔の能力が恐竜から鳥に伝わったかもしれないという、この説。こうした行動に関する説についての確証を化石から得ることは大変難しいでしょう。しかし、自分よりはるかに大きな相手に対する比較的無防備な背中への攻撃そのものの可能性はもちろん否定できるものではなく、そんな中生代の光景を想像してしまいます。    



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