恐竜の話題(論文紹介): (7) 恐竜の羽毛 羽毛の進化

2015年9月26日土曜日

(7) 恐竜の羽毛 羽毛の進化


羽毛の構造


進化的に鳥に近い恐竜の体が羽毛におおわれていたことは、恐竜像の大きな変貌でした。
特に中国から保存状態のよい化石標本がいくつも見つかっていることが、最近の発見につながっています。
鳥も恐竜のグループに含まれますが、ここでは鳥ではない恐竜(非鳥類恐竜)を恐竜と呼びます。

鳥の羽毛(大羽(おおばね))の構造をこの記事の最初に示しました。
羽毛の1枚がきれいに面を形作っているのは、羽枝(うし)から出ている小羽枝(しょううし)にフックがあり、これが隣の小羽枝に引っかかって整列しているからです。抜けた羽毛を手に取って、小羽枝どうしがぴったりくっついているのをぴりぴりと割いてみたり、これを指の腹でさすって元に戻してみたりしたことが誰にでもあるのでは、と思います。
鳥が空を飛ぶのに欠かすことができない、このような精緻な構造を持つ羽毛。その羽毛は恐竜の体表で進化してきました。

羽毛の進化


竜盤類の中の獣脚類(じゅうきゃくるい;Theropoda)のグループは鳥、そして進化的に鳥に近い恐竜を含みます。獣脚類の恐竜の中でもより鳥に近いものには上の図のように羽軸(うじく)の両側に羽弁(うべん)が広がる鳥類と同じような羽毛があります。ミクロラプトルの羽毛の羽弁は、この模式図のように羽軸に対して非対称となっており、飛行機の翼のように飛翔に役立つ空力特性を持っています。もっとも、実際にミクロラプトルが力強く空中に舞い上がることができたか、樹木から飛び降りるなどした時の滑空の際に羽ばたく程度で終わっていたのかは、わかっていません。
羽毛がない獣脚類の恐竜も線維状の構造、すなわち毛が体表にあります。その構造はプロトフェザー(protofeather)と呼ばれます。大型の獣脚類、および獣脚類以外の恐竜は基本ウロコでおおわれていると考えられていますが、プロトフェザーは草食の鳥盤類にも見つかっています(文献1)。かなりの種類の恐竜が、体の一部にせよ、毛をはやしていた可能性は高そうです。
恐竜ではない、翼竜の体表にも毛があることが知られており、これにはピクノファイバー(pycnofiber / pycnofibre)という名称がついています(文献2)。

下の図は羽毛の進化の様子です。



羽毛はウロコが変化してできたものではなく、新たに表皮に現れた構造で、つくりがウロコとは異なります。鳥の発生過程でも、最初はシリンダー構造の伸長物ができ、そこから左右非対称の羽弁をもつ羽毛がつくられます。

羽毛の誕生は飛翔の前に起こったのだということはかなり確定的となっています。
恐竜がなぜ羽毛を発達させてきたかについては、いろんな説明があります。実際、羽毛の進化を促すことになった理由はひとつではなかったのでしょう。
説明のひとつとして、羽毛やプロトフェザーは体温の保存に役立ったというものがあります。恐竜から鳥に至る進化の中で、体が小さくなっていったということが大きな特徴とされています(文献3)。早く成長するには高い体温が必要ですが、小型の動物になるほど、体の容積に対する体表面積の割合が大きくなり、体温の保持が難しくなります。羽毛が持つ保温の役割は現在の鳥でもとても重要です。
他にはディスプレイ、すなわちお互いの視覚的な識別に役に立っていたはずだという説明があります(文献4)。今のところ恐竜のこうした体表の構造には雌雄の違いが認められていないのですが(孔子鳥には雌雄の違いが認められるという報告があります(文献5))、保存状態のよい標本がまだまだ限られる中、これから何かわかってくるかもしれません。また、個体間のコミュニケーションは同じ種の雌雄間に限られたものでもありません。
視覚に関係するとなれば、形だけでなく、色も問題となります。次回はこうした太古の動物の羽毛の色に関する話題です。



文献1:Zheng, X.-T. et al. (2009). Nature, Vol 458, 333.
文献2:Kellner, A. W. et al. (2010). Proc Biol Sci Vol 277, 321.
文献3:Lee, M. S. Y. et al. (2014). Science Vol 345, 562.
文献4:Foth, C. et al. (2014). Nature Vol 511, 79.
文献5:Chinsamy, A. et al. (2014). Nature Commun Vol 4, 1381.

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